Part.2 I'll tell you about... worth of friends



「…それじゃあ、これ、今月分ね。」
「…いつも済まないな。」
コーディから今月分の生活費を受け取り、俺は彼に深々と頭を下げる。何の仕事もしていない俺たちは、こうしてコーディから金銭面での援助を受け、何とか暮らしていた。レオナルドがいるおかげで、その額は今までより増えたが、コーディは笑って首を横に振る。
「気にしないでよ。君たちを放っておけないのは事実だし。それより…。」
言いかけて、コーディは顔から笑みを消す。そして彼は、ためらいがちにこう切り出した。
「…僕も、会わせてもらえないかな。…レオナルドに。」
「……。」
内心、とうとう来た、と思った。レオナルドの存在をコ−ディに知らせたときから、いずれはこう言われるだろうと覚悟もしていた。
「…分かった。」
その言葉を、俺は断れない。少し躊躇もあったが、俺はコーディと共に、自分たちの塒へと戻った。


「お帰りー。」
塒に戻った俺を、レオナルドは笑顔で迎え入れ…、その後ろに続くコーディの姿を認め、怪訝な顔になった。
「…だ、誰…?」
怯えたような顔のレオナルドに、コーディは身を屈め、そっと右手を差し伸べる。
「…初めまして、レオナルド。僕はコーディ。ダークレオナルドの友達だよ。」
「……えっ?」
まだ、状況がよく分かっていないらしい。俺は前に進み出て、レオナルドの頭を撫でてやる。
「そうだ。彼は、俺の友達だよ。お前に会いたいと言うから、連れてきたんだ。」
俺の言葉を受けて、コーディはにっこりと笑う。レオナルドは戸惑っていたが、やがておずおずと手を伸ばし、コーディの手を軽く握った。
「よろしくね、レオナルド。」
「…う、うん。」
レオナルドは、まだ少し戸惑っていたものの、コーディの明るい笑顔と、何より俺が側にいることで、少しずつ警戒心を解いてきているようだった。
「レオナルド、お前が寝ているベッドや、いつも食事をするテーブル、この部屋の家具はみんな、このコーディが買ってくれたものなんだ。」
「本当!?」
補足のつもりで放った言葉だったが、これでレオナルドはすっかりコーディに心を許したらしい。
「あのね、このベッド、すっごくふっかふかで寝心地いいんだ! あとね、たくさん本も買ってくれたんでしょう!? ありがとう!」
「そう、良かった。」
満面の笑みで、レオナルドはコーディに親しく話しかける。答えるコーディも笑顔だ。良かった…。
迷っていたが、やはり会わせたのは正解だったようだ。レオナルドの明るい笑顔に、俺は心から安堵した。


その日の夜。夕食の片付けを終えた俺は、レオナルドのいる部屋に戻ってきた。彼は床に寝そべり、画用紙に絵を描いていた。俺は後ろから近寄り、肩越しにそっとのぞき込んで見る。
「何を描いているんだ?」
「コーディ!」
元気な声の返事に、俺は納得する。確かに、紙にはコーディが描かれていた。その脇を、俺とレオナルドが固めている。彼が知る世界の、全てが。
ベッドに腰掛けて一息つくと、途端にレオナルドが歓声を上げた。
「出来たっ!」
クレヨンをしまい、レオナルドは画用紙を胸に抱き、俺の元へと駆け寄ってくる。
「ダークレオナルド、見て見て!」
レオナルドから画用紙を受け取り、改めて眺めてみる。レオナルドはかなり絵心があるらしく、一度会っただけのコーディの特徴も、かなり良く捉えていた。
「…うん、上手だぞ。」
頭を撫でてやると、レオナルドは嬉しそうに顔を綻ばせる。彼もベッドに座り、きらきらと輝く目をこちらに向けてきた。
「ねぇ、ダークレオナルド。コーディと、ダークレオナルドは、友達なんだよね?」
「…あぁ、そうだ。」
唐突な質問に少し面食らったが、次の言葉で俺はレオナルドの意図を理解した。
「じゃあ、俺とコーディも、友達なのかな!?」
…恐らく、今まで俺しか知らなかったところに、初めて現れた人物。しかも、自分に親切な存在。それが出てきたことが、レオナルドは嬉しいのだろう。
「…そうだな。お前とコーディも、友達、だ。」
「やったぁ!!」
今日一番の笑顔を浮かべて、レオナルドは俺に抱きついてくる。しかし、
「…ん?」
その笑顔が急に消えうせ、彼は眉を顰める。どうしたというのだろう…。
「ダークレオナルドとコーディは、友達でしょ。んで、俺とコーディも、友達…。」
口の中で、確かめるように呟くと、不意にレオナルドはふっと顔を上げる。
「それじゃあ、ダークレオナルドと俺って、何なの? 友達?」
「…あ。」
真っ直ぐな問いに、俺は自分たちの関係の曖昧さを気づかされる。友達…では少し違う。家族と言うのも、少し抵抗がある。やはり…。
「ねぇねぇダークレオナルド、何なの?」
答えをせがむ彼に、俺は出来る限り優しい笑みを返す。
「…友達よりも、もっと良い言い方があるんだがな。」
「えっ、ナニナニ!?」
途端に目を輝かせるレオナルド。期待に満ちたその顔に、俺は低い囁きを送り込んだ。
「…恋人、だ。」
「こいびと…。」
それを聞いたレオナルドは、すぐにベッドから降り、言葉の意味を調べ始める。ネット回線に繋がった端末を使い、キーボードで言葉を打ち込み…。
「…レンアイカンジョウ、って、何?」
ベッドに戻ってきて、そんな質問を投げかけてきた。
「…そうだな、レオナルドは、俺が好きか?」
「…うん、好き。」
こくりと頷くレオナルドを、膝の上に抱き上げてやる。
「俺のことが、大切か?」
「もちろん!」
「俺と、ずっと一緒にいたいと思うか?」
「うん。」
「では、もし俺が、レオナルド以外の人を、こうやって抱きしめていたら、お前はどう思う?」
「…んー、…イヤ、かな…。」
想像したのか、レオナルドは唇を尖らせながら、俺の胸にすがり付いてくる。
「俺の笑顔が、たくさん見たいと思うか?」
「うん!」
「レオナルドは、こうして俺に抱きしめられていると、嬉しいか?」
「もちろん、すっごい嬉しい。」
その嬉しさを示すように、レオナルドは笑顔で頬をすり寄せてくる。それなら…。
「…なら、それが恋愛感情というものだ。大切に想う相手がいて、その人とずっと一緒にいたい、その人の笑顔が見たいと思うようになる。それが恋愛感情だよ、レオナルド。」
頭を撫でてやるが、レオナルドから疑問の表情は消えない。彼の唇が紡ぎだす言葉を、俺は待った。そして、
「…じゃあ、ダークレオナルドも、俺のことを、同じように想ってる?」
「…あぁ。俺もお前を大切に想っているよ。ずっと一緒にいたいし、お前の笑顔もたくさん見たい。お前が喜ぶことなら、何だってしてやりたい。…大好きだよ、レオナルド。」
彼は、呆然とした顔でこちらを見つめている。俺の言葉の意味を、小さな胸で精いっぱい受け止めた結果、その琥珀色の双眸から、大粒の涙がこぼれ出した。
「おっ、俺もっ、ダークレオナルドのこと、大好き…!」
懸命に涙を拭いながら言うも、涙は思惑に反して、なかなか止まってくれないようだった。
「あれ、何で。嬉しいのに…、止まんないよ…!」
「…レオナルド。」
涙ながらの告白に、今度はこちらが感極まってしまう。そっと頬を手のひらで包み、唇を塞ぐ。想いが通い合ったからか、その口付けはいつもよりも甘く、優しかった。


彼は知らない。知らないままでいい。

「恋人」と口にのぼせる度に、俺の胸の奥が、ちくり、と小さく痛むことなど。



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