恋華 〜Fire Heart〜 もう一つのラスト



「…あの、俺…。」
「待て。」
やっと話を始めようとした俺を、ラファエロが手で制する。彼はそのまま屋上の端まで歩いていき、下の路地をのぞき込んだ。
「ラファエロ…?」
「しっ。」
声をかけた俺に、ラファエロは唇の前に指を立て、続いてこっちに来い、と手招きをした。
俺もつられて下をのぞき込むと、その路地にけたたましいブレーキ音を響かせながら、一台のトラックが入ってきた。
中から降りてきたのは、どこから見ても人相の悪い奴らだった。
「…パープル・ドラゴンの連中だな。へっ、暴れがいがあるってもんだぜ。」
言いながら、ラファエロは腰からサイを引き抜く。話の途中だけど、あいつらを放っておくわけにはいかない。俺も背中から刀を抜き、戦闘に備える。
奴らが全員ビルの中に消えたのを見計らって、俺たちは揃って屋上から飛び降りた。


トラックの陰に隠れ、様子を伺う。どうやらまた盗みを働いているらしい。中から物の壊れる音が断続的に聞こえてきている。
「どうせなら、奴らが全員揃ったところで登場といきたいよな。」
「同感だ。」
そこで俺たちは、奴らが建物から出て来るまで待つことにした。奴らはきっと油断している。そこが付け目だ。
やがて、中から戦利品を抱えた奴らが出てきた。強盗行為が成功した直後に俺たちが現れたんだから、連中の驚きは相当なものだったろう。
「よお。わざわざ俺たちに痛めつけられに来たのか? ご苦労さん。」
サイを回しながらラファエロが挑発する。
「さぁてレオナルド。このぜんぜん懲りないマヌケなストリートギャングたちには、一体どうすればいいと思う?」
「もちろん、お仕置きさ。…タートルズ流のな。」
「その通り! よくわかってんじゃねえか。」
刀を奴らに向けて構えると、ラファエロもそれにならい、サイを体の前で交差させる。
「さあ、お仕置きタイムだ。行くぜ!」
「やっ…、野郎ども、やっちまえ!」
真ん中にいたリーダー格の男が今さら命令を下すが、もう遅い。


「はあっ!」
まずはラファエロが向かってきた男をキック一発で地に伏せ、次の奴が持っていた棍棒をサイで絡め取って殴り飛ばす。
俺も負けじと、手近にいた男の鉄パイプを細切れにし、後ろから来た奴と一緒に刀で弾き飛ばす。
「ふっ!」
「そう言えばよお、レオナルド!」
奴らを軽くあしらいながら、ラファエロが言う。
「お前、何か話があるって言ってたよな!」
「ええ!? 今言うのか?」
向かってきたデカいのに拳を叩き込みながら、俺は返事を返した。
「ああ! どうせこいつらには関係ない事だろ! っと!」
ラファエロの腕に分銅付きの鎖が巻き付く。しかし彼は引っ張られた勢いを利用し、奴に跳び蹴りを食らわせた。
「それはそうだけどっ!」
戻ってきたラファエロと背中合わせになる。残った数人に囲まれるが、俺はそれどころじゃなかった。
「ほら、早く言え!」
「うっ…、…わかった、言うよ!」
一呼吸置いて、俺は一気にぶちまけた。
「俺、ラファエロが好きだ!」
刀を持っていた奴と鍔迫り合いになる。しかし、腹めがけて蹴りを入れると、油断していた奴は呆気なく吹っ飛んでいった。
「…それは、家族として、か!?」
走ってきた奴の勢いをそのまま使い、腕を掴んで後方へと投げ飛ばす。ラファエロの言葉に俺は首を振り、
「いや! それ以上だ!」
一回飛ばされたにも関わらず、復活してまた殴りかかってきた奴を、自分の後ろにいた奴と衝突させる。まったく、いくらやってもキリがない。
だが、次の瞬間、俺は耳を疑った。
「嬉しいぜ、レオナルド!」
奴らのパンチを軽々と避けながら、ラファエロが言った。
「お前が、そんな風に、思ってくれてたなんてよ!」
最後にそいつらを回し蹴りで仕留める。しつこかったけど、これで全員片づいた。
「ひぃっ、お、お前ら、ずらかるぞ!」
リーダー格の男に引きずられるように、奴らは這々の体で逃げ去っていった。


「ふん、口ほどにもねぇ。」
ラファエロは得意げに笑い、サイを腰にしまった。
一方、俺はさっきのラファエロのセリフが気になってしょうがない。今、「嬉しい」って、言ってなかったか…!?
「ら、ラファエロ…、さっき、何て…?」
「あ? …何だよ、聞いてなかったのか?」
俺が頷くと、ラファエロは困ったような顔になり、
「あー、そのー、つまりだな…。」
そこで言葉を切ると、ラファエロは俺の後頭部に手をやり、強引に自分の方に引き寄せた。
「えっ、あ…。」
急に近くなる、俺たちの顔の距離。唇を塞がれて、俺は頭が真っ白になってしまった。
「…つまり、だ。俺もお前が好きってこった。…分かったか?」
それだけ言うと、ラファエロはくるりと俺に背を向けてしまった。もしかして、照れているのだろうか。
「分かったんなら、そろそろ帰ろうぜ。」
俺が何か言う間もなく、ラファエロは近くの非常階段を素早く昇り、俺を見下ろした。
「リーダーに続けのゲームの、再開といこうじゃねえか。」
そこでようやく我に返った俺は、慌ててラファエロを追いかけた。
「待て、ラファエロ!」


満月の光の中、俺たちは夜のニューヨークを走る。思うままに体を動かしながら。
「なあラファエロ、本当に俺のこと好きなのか!?」
「何だぁ、信用できねぇ、ってか?」
俺の横に並んで走りながら、ラファエロは大きく息を吸いこんで叫んだ。
「愛してるぜぇ、レオナルド!!」
「なっ…、誰がそんなこと叫べって言った!」
嬉しさと恥ずかしさがごちゃ交ぜになって、顔が真っ赤になる。
「証明できたろ? さ、我が家まで競争だ!」
「はぐらかすな!」
これじゃあムードも何もあったものじゃない。でも、俺の心は不思議に温かかった。


そう、この温もりと揺るぎない想い。
それさえあれば、俺たちは誰にも負けやしない。



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