ハートのA
「…ほい、また俺の勝ち。」
キムは笑顔でそう言い、手にしていたトランプを机の上に放り投げた。
「くそっ……!」
俺は忌々しげに吐き捨て、トランプを投げ捨てた。
そもそも、キムの誘いに乗ったのがいけなかった。
「全部で5回勝負。負けたら、勝った方の言う事を何でも聞く」という条件でやったが、何と3−0のストレート負けを食らった。
いくらキムがギャンブルが好きとはいえ、これは…。
「…イカサマしてねーか!?」
「冗談。だったら、最初から勝負なんてしねえって。そんじゃ…。」
キムが笑う。すっごく意地悪そうに、にやりと。
「早速、俺の言う事、聞いてもらおうかな。」
「…わかったよ。どうにでもしろ!」
覚悟を決めて椅子に座りなおす俺に、キムは一言だけ言った。
「ピエール、目を閉じろ。」
「…?」
言われるままに俺は目を閉じる。その瞬間、俺の唇は何か柔らかいものに塞がれた。
驚いて目を開けると、何とキムの顔がすぐ近くにあった。
つまり、俺は、キムに、…キスされた、って事か…!?
「なっ…、何すんだよ…っ!」
慌ててキムから体を離し、口の周りを手で覆う。
「大切に、取っといたんだぞ…!?」
「…何だ、ファーストキスだったか? それじゃあ…。」
キムが心底嬉しげな表情を浮かべ、もう一度俺の口を塞ぐ。
「ほら、返したぜ。」
「一緒だっ!!」
叫んで、火照った頬に手を当てる。恥ずかしさが後から湧き出てきて、俺はもう何がなんだかわからなくなってしまった。
「…そんなに騒ぐなよ…。つまりだな…。」
キムは、トランプの山の中から、1枚カードを探し出して、俺の目の前に差し出した。
「こういうことなんだよ。」
目の前のカードは、ハートの、A…。
「………えええっ!?」
洒落じゃない。たっぷり10秒くらい沈黙してからの声だったから、こんな風になってしまっただけだ。
「ピエール、俺のこと、嫌いか?」
キムが、いつになく真剣な表情で聞いてきた。
「えっ…、き、嫌いじゃ、ないけど…。」
「じゃあ、好きなんだな!? やったぜ!」
「へっ? あ、ええっ…!?」
何だかわからない内に、俺はキムに抱きしめられていた。そんな俺たちを、コーリーが少し困ったような顔で見つめていた。
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