刹那



隣の夜具に、政が潜り込む気配がした。
竜は政に背を向けた格好で寝ていたが、あえてそちらを向かずにいた。
「竜、起きてんだろ?」
政の声が掛かる。どうやらまだ寝ていないのがわかったらしい。
観念した竜が寝返りを打つと、こちらをじっと見つめている政と目があった。
「あのさ、俺、つくづく思ったんだが…。」
暗闇に慣れた竜の目に、穏やかな笑みを浮かべる政が映る。
「俺たちは、絶対に長生きなんざ出来ねぇ稼業だ。どこで命を落とすかもわからねぇ。だけどよ…。」
そこで言葉を切り、政は視線を天井に向けた。
「竜、おめぇが隣にいるんだったら、俺は地獄に行こうがどこに行こうが、大丈夫だぜ。」
沈黙が落ちる。政は竜の反応を待っているようだったが、いつまでたっても竜が一言も発しないので、視線を横に戻した。
「…おい、竜?」
政と視線が合った瞬間、竜は呆れたようにため息を漏らした。
「何を言い出すかと思ったら・・・。」
「…人がせっかく殊勝な事言ってんのに、その反応はねぇだろ…?」
いきり立つ政に、竜は少しだけ口角を上げ、
「何でそんなに刹那的になってんのか知らねぇけどよ…。」
ゆっくり起き上がると、自分の夜具を押しのけ、隣の政の夜具に潜り込んでいった。
「お前、何を…!?」
「お前の言うとおり、俺たちは明日どうなるかわからねぇ身の上だ。だからこそ、今、この瞬間を大事に思えるんだ。違うか?」
「…そうだな。その通りだ。」
それきり、二人は言葉を交わさなかった。今感じているこの温もりも、安らぎの時間も、決して永遠ではない。しかし、
共に過ごせる刹那の間に、わずかばかりの幸せでも噛み締める事が出来たなら、
二人はそれで満足なのである。



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