好きだなんて言わない
「キリアン!!」
不意に後ろから呼び止められて、僕は振り向いた。視線の先には…
「ゆ、有紀さん?」
シリウス小隊の先輩である、有紀さんがいた。
でも、何か凄い剣幕でこっちに歩いてきてるんですけど…!?
「ど、どうしたんですか? そんな怖い顔して…。」
有紀さんは僕の言葉に答えず、無言で僕の手を掴んで、そのまま歩き続けた。
「へっ!?」
「話がある。一緒に来るんだ。」
えー!? 何か怒ってるみたいだ…。僕、何もしてませんよー!?
でも、有紀さんと手を繋げているのは、ちょっぴり嬉しいかな…。
連れて来られたのは、喫茶室だった。僕の向かい側に有紀さんが座る。
…でも、まだ怒ってる!!
「何ですか…、話って。」
僕が声を掛けると、それまで俯いていた有紀さんの顔がこっちを向く。
真正面から見つめられて、僕は少しどきっとした。
「バルジ隊長から聞いた。撃たれたんだって?」
「えっ…?」
撃たれた? 僕が? えーっと…。
…あぁ、思い出した。確か、次元シールド掘進機を探しに行った時に…。
「…えぇ、そうです。」
あまり思い出したくないことに触れられ、僕は頭を掻いた。すると、有紀さんは空いているほうの僕の手をいきなり両手で握った。
「えっ? ゆ、有紀さん!?」
「良かった…、無事で…!」
「…っ!」
顔が真っ赤になる。繋いだ手から、有紀さんの体温が伝わってくる。それが、僕の鼓動を速くしていく。
「…キリアンが撃たれたって聞いたとき、俺は不安でたまらなかった。 一刻も早く、キリアンの顔を見て、安心したかった…。」
「有紀さん…。」
この人は、そんなに思いつめるほど、僕を心配してくれたのか…。
「…もう大丈夫ですよ。ほら、この通り!」
暗い表情の有紀さんを励ますように、僕は明るい笑顔を作った。
「何があろうと、絶対に諦めない。それが、シリウス小隊で、有紀さんが僕に教えてくれたことでしょう?
だから、撃たれようが何されようが、僕は平気ですよ。」
「…そうだな。」
良かった、やっと有紀さんが笑ってくれた。
「傲慢かもしれないけど、俺はもう、誰一人失いたくないんだ。勿論、キリアンもだ。…皆、大切な仲間だから。」
「…っ!」
仲間。その言葉の響きが、僕の胸を締め付ける。
解放された手を膝の上に置き、僕は目を閉じた。
心に生まれた思いが、言葉となって僕の口から滑り出す。
「…嬉しいです、有紀さん。」
目を開けると、視界が涙で滲んでいた。
「あなたに、そう思ってもらえるだけで、僕は…!」
溢れ出しそうな涙を、指で拭う。
「…何だかんだ言っても、僕はやっぱり有紀さんが好きなんです……って、あれ!? 有紀さん!?」
顔を上げると、そこに座っていたはずの有紀さんの姿がなかった。
辺りを見回すと、有紀さんはカウンターでコーヒーを買っていた。
「……。」
あまりの事に呆然としていると、有紀さんがトレーにコーヒーを二つ乗せて戻ってきた。
「どうしたんだよ、キリアン。そんな顔して…。」
「…聞いてなかったんですか!? 僕がせっかく…!」
「えっ? 話を聞いてないのはそっちだろ。コーヒー買ってくるからって、ちゃんと言ったじゃないか。」
有紀さんはトレーをテーブルに置いて、コーヒーを一つ、僕の前に差し出した。
僕は自分の告白を聞いてもらえなかったことにむくれながら、隊服のポケットから財布を取り出した。
「幾らでしたっけ?」
「奢るよ。」
「……えっ?」
一瞬、有紀さんの言葉の意味が解らず、僕はつい変な声を出してしまった。
「聞こえなかったか? コーヒーくらい、奢ってやるよ。飲まないのか?」
「…の、飲みますよ!」
僕は照れてるのを隠すため、わざと不機嫌な顔をしながら、コーヒーにミルクと砂糖を入れた。
…まったく、有紀さんにかかると、僕は喜んだり拗ねたり、振り回されっぱなしだ。
でも、有紀さんが好きだから、それでもいい。
ただ、さっきの告白! 僕があんなに素直になったのに、聞いてないなんて!
もう、絶対言わない! 有紀さんが自分で気づいてくれるまで、絶対にもう好きだなんて言わない!
…でもなぁ。有紀さん、結構…いや、かなり鈍感だからなぁ…。
まだまだ先は長いや。
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