似たもの同士



「待ちやがれ!」
「今日は逃がさねぇぞ!」
そんな物騒な声に、俺は渡っていた橋の下を、ひょいと覗き込んだ。
(あれは…!)
橋の下、三人ほどのごろつきに追いかけられている男が一人。それは紛れもなく、
(竜じゃねえか…。何やらかしたんだ、あいつ…。)
ともあれ、想う相手が追い掛け回されているのを、黙って見ていられるわけもない。俺はすぐに橋の下に降り、竜の加勢をすることにした。
「何だ手前ぇは!」
橋の下に降りるなり、ごろつきの内の一人が食って掛かってくる。そいつの鳩尾に、俺は無言で拳を叩き込んだ。
これでまず一人。
それを見て、竜も手近にいた奴の腕を掴み、そのまま後ろに回り込んで関節を捻り上げる。濁った悲鳴が辺りに響いた。
「…おい、まだやるか?」
「いっ、いいえ…! 遠慮しておきますぅぅ!」
観念したと見て、竜がそいつを解放してやる。と、奴は痛む腕を擦りながら、残った一人を連れ、泡を食って逃げ出していった。
「はぁ…。」
思わずため息をついた俺に、竜は怪訝そうな目を向ける。
「お前ぇ…、何で来たんだ?」
「…聞きてぇのはこっちだよ。何であんな奴らに追われてたんだ?」
逆に俺が聞くと、竜は無言で歩き出す。追いかける俺を後目に、竜は橋の下まで行って、そこで足を止めた。
「…二日くらい前、あいつらに絡まれてた娘を助けた。そうしたら今日、奴ら、逆恨みして襲ってきやがったんだ。」
「…なるほど、な。」
それなら、納得がいく。が、
「…その子、絶対お前ぇに惚れたな。色男も苦労するな。」
「……何が言いてぇんだ。」
じろりとこちらを睨む竜に、俺はひょいと肩を竦めてみせ、
「ま、行動自体は間違っちゃいねぇ。俺だってそんな場面に出くわせばそうするさ。」
ただ、こいつは分かってねぇ。その優しさが、結果的に俺にとっての恋敵を増やす、ということを。
「…ったく、とっとと俺のものになっちまえば済むことなのにな…。」
思わず漏らした独り言。だが、竜にはしっかり聞こえてしまったようだ。眉を顰めても変わらぬ整った顔立ちで、じっと俺の顔を見てくる。
「…お前ぇ、今何て言った?」
「……何でもねぇ!」
妙に気恥ずかしくなって、俺は頭をがしがし掻きながら視線を逸らした。
「っと、そうだ。お前ぇ、せっかく俺が加勢したってのに、礼も無しかよ。」
「……。」
照れくささを隠すためにわざと大きな声で言うと、竜は急に黙り込み、川のほうに視線を投げた。
「…助けてくれなんて、頼んだ覚えはねぇよ。」
話をはぐらかすような口調だが、俺には分かる。いつもより少し瞬きが多くなっているのは、こいつが照れている証拠だ。
「…はっ。」
俺が苦笑を漏らすと、即座に竜が睨んでくる。何がおかしいんだ、とでも言いたげに。
あと、この拗ねたような表情。これも、竜が照れたときに見せる顔だった。


(いつまでたっても、素直じゃねぇな…。)

ま、人のことは言えた義理じゃねぇ。俺もこいつに対しては、素直になれた試しがないからな。

全く、お互い変なとこが似ちまったもんだ。



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