シリウス一家は、こんな感じの家族です。



その時の私は、いつになく真剣な表情だった。
左隣のデイビッドがこちらに差し出すトランプの束。全部で6枚ほどだろうか。
自分の手持ちのカードは7枚。自分の手札とデイビッドの手札を見比べながら、私は慎重に手を伸ばした。
「父さん、早く取ってくれよー。」
先ほどからデイビッドは、心底愉快そうな笑みを浮かべている、それがポーカーフェイスなのかどうなのか、判別が出来ない。
(ええい…!)
私は覚悟を決め、中央付近のカードを1枚抜いた。そっと捲ってみると……。
「…よし、あった。」
デイビッドから引いた、クラブの6。それと手札の中のダイヤの6を合わせて、テーブルの上に捨てる。
「ブルース、引きなさい。」
私は両手に持った手札を、右隣にいるブルースへと差し出す。左から2番目のカードを引き、ブルースは残念そうに首をかしげた。
「ダメだった…。」
軽くシャッフルされたブルースの手札。その内の1枚を学が引き、手持ちの札と一緒にテーブルに捨てる。ハートの4とダイヤの4だった。
「おにーちゃん、はやくー。」
ルイに急かされ、学は自分の手札を差し出す。その中から1枚引くと、ルイは眉間に皺を寄せた。
「う。」
…ルイは、とても素直な子である。だが、今のようにババ抜きをしている最中では、それは裏目に出てしまう。
「…ルイ、それじゃあ皆にわかってしまうぞ…?」
「…い、いいの!」
私の言葉に反論し、ルイは手札を背中のほうに回してシャッフルする。満を持して差し出した手札だったが、
デイビッドは上手くジョーカー以外のカードを引いたようだ。ルイの眉間の皺が消えない。
「ほい、父さん。」
「うん。」
促され、私はデイビッドの手札を引く。今度は残念ながらペアにならなかった。

そんな事を繰り返していると、学の方に動きがあった。
ブルースから引いたカードが、手持ちのカードと共に捨てられる。学の持っているカードは、残り1枚。これをルイが引けば…。
「…やったー! 僕が1ばーん!」
最後の1枚をルイに渡し、学は空になった両手で万歳をする。
「ちぇー、まーた学が1番抜けかよー…。」
デイビッドがぼやきながら、ルイの手札から1枚抜き取る。それがペアになったようで、デイビッドの手札は残り2枚となった。
だんだん、勝負は真剣さを増していく。次に上がったのはブルースで、その次が私。最後は、デイビッドとルイの一騎打ちとなった。
「うーん…。」
デイビッドは、残り1枚となった手の中のカードを、何度も確認している。
片やルイは、2枚のカードをしっかりと掴み、デイビッドをじっと睨んでいる。
ルイの持つカード。どちらかがジョーカー。緊張の一瞬に、その場の全員が息を呑む。
そして勝負は、いともあっけなく終わった。
「よっしゃ! オレの勝ちー!!」
デイビッドが最後のペアのカードを投げ捨て、高々と両手を上げる。
「ぃやったやったー♪」
踊りだしそうなデイビッド。しかし、その声はすぐに遮られた。
「あ゛ーーーーーーん!!」
ルイは不満の声を上げながら、ジョーカーをテーブルに思い切り叩きつけた。
(まずい!)
「る、ルイ、もう一回やろう。なっ?」
「うー……。」
泣きそうなルイを何とか宥め、私は散らばったトランプをかき集める。その時、
「皆さん、クッキーが焼けましたよ。」
廊下から、ユキが顔を覗かせた。
「わーい! 待ってましたー!」
その声を聞くやいなや、子供たちはトランプそっちのけで立ち上がった。先ほどまでは泣き顔だったルイも、
クッキーが食べられる嬉しさに顔を綻ばせている。
「くっきー♪ くっきー♪」
「食べる前に、きちんと手を洗ってくださいね!」
「はーい。」
子供たちは、我先にとキッチンへ急ぐ。私も手早くトランプを片付け、居間を後にした。

ゆったりとした春の休日は、このような感じで過ぎていったのであった。




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