恐怖の家庭菜園



よく晴れた、日曜日の昼下がり。私とルイは、庭の空いたスペースを家庭菜園にするため、せっせと働いていた。
「おとーさん、これもってきたよ。」
「ありがとう。」
ルイの手から肥料を受け取り、土の上に撒く。私の傍らには、お店で買ってきたトマトやきゅうりの苗がある。
「おおきくなぁれ♪ おいしくなぁれ♪」
「おいおい、まだ植えてないぞ。」
苗を前に浮かれるルイに、私は苦笑を漏らした。
「さて…。」
私は立ち上がると、ルイに小さなスコップを渡した。
「この苗を植える場所だが、ルイが自由に決めていい。ただ、苗と苗の隙間があまり近いとダメだぞ。」
「はーい!」
弾けそうな笑顔を浮かべ、ルイは地面を掘り始める。私はそれを笑って見ている。
…この後に、あんな恐ろしいことが起こるのを、全く知らずに。
「あっ!」
それまで穴を掘っていたルイが、何かを見つけたらしい。嬉々としてそれを私に見せてくれた。
「何か見つけたのか?」
「ほら、みて! 
メメゾさん!」

ぴしっ。

ルイの手の中にある、うねうねと蠢く細長い生き物を見て、私は硬直した。徐々に体温が失われていくのがわかる。
頭が真っ白になり、白くなった顔を脂汗がだらだらと伝う。
「おとーさん?」
「っ!」
ルイの声で我に返り、私はその場から全速力で逃げ出した。一度も後ろを振り返る事無く、100mくらい全力疾走し、そこで足を止めた。
「はぁっ、はぁっ…。」
縮こまった肺に空気を送り込み、私はその時初めて後ろを振り返った。玄関から顔を覗かせているルイに、私はあらん限りの大声で叫んだ。
「ルイ! 早くそれを捨てなさい!! い、今すぐ捨てなさい!!!」
果たして、この声は聞こえたのかどうか…。ともかく、ルイは手の中のアレを捨てるような動作をした。それを確認し、私は家のほうへ戻る。
「ダメだ…、あれはダメだ…、絶対にダメだ…。」
青白い顔でブツブツと呟く私を、ルイは少し怯えた顔で見ていた。
「おとーさん、メメゾさんきらい?」
「そうだ! 嫌いだ! 大っ嫌いだ!!」
ぶるぶる震えながら必死で言う私を、不満げな顔で見つめるルイ。
「どーして? おもしろいのに…。」
「面白かろうが何だろうが、お父さんはアレが嫌いなんだ。なあルイ、優しいお前ならわかるよな。
もうアレを見つけても、お父さんに見せてくれる必要はないぞ。いいな、わかったか?」
「う……、うん……。」
両肩を掴み、かなりの至近距離から、視線をぴったりと合わせての説得を、ルイはどうやら聞き入れてくれたようだ。良かった…。
「さ、早く苗を植えてしまいなさい。」
「はーい。」
ルイが畑に苗を植えている最中も、私は決してそちらを見ようとしなかった。
家庭菜園を作るのはいいが、こんな騒ぎは二度とごめんである。



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