素直になれないけれど
二人並んで、酒を飲んでいる。
肴は無い。それぞれが自分の盃に酒を満たし、それを飲み干していく。
言葉も無い。しかし、元来寡黙な二人は、沈黙を苦にしていないようだ。
「……。」
自分の盃を干した政が、徳利に手を伸ばした。すると同時に、竜も徳利に手を伸ばす。徳利の表面で、二人の手が重なり合った。
「あっ…。」
竜が微かに声を漏らす。ぱっと手を引いた政が、その手を頭にやり、
「悪ぃ…。」
小さく呟き、あらぬ方向を向いてしまった。
行灯の炎が揺れ、ほんのり赤く染まった竜の顔を照らし出す。
あまり感情を顔に出さない竜だが、微かに微笑を漏らすと、政の空いた盃に酒を満たした。
「……。」
それを横目で見た政は、小さく頷き、それを一思いに飲み干した。
「ん。」
今度は、政が竜に徳利を差し出す。それを受け、竜もその酒をゆっくりと飲んだ。
盃を畳の上に置き、竜が小用を足しに立ち上がろうとした。すると、飲みすぎたのか竜の身体がふらつく。
それを見た政は、咄嗟に崩れ落ちかけた竜をその手で受け止めた。
「っと…。危ねぇとこだったな。」
「……すまん。」
後ろから政に肩を抱かれる形になり、竜がほんの少し顔を赤らめた。
着物の布地越しに、政の体温が伝わってくる。
そのまま、静かに目を閉じかけた竜だったが、政の一言でふっと目を開いた。
「大丈夫か? じゃあ、この辺でもう休むとするか。」
「…そうだな。」
返事をして、竜は再び立ち上がる。外へ出ようとした竜の背中に、夜具の用意はしておくぜ、と政が声を掛けた。
竜が戻ってくると、すでに酒は片付けられており、部屋の真ん中には夜具が二組。
その片方で、すでに政が寝息を立てている。
「……。」
切れ長の瞳に、何やら切なげな色が浮かぶ。
竜は無言で政の枕元に立つと、やおらその身を屈み込ませた。
政の頬に手を添え、薄紅色の唇をわずかに開き、ゆっくりと瞳を閉じ――
触れるだけではあったが、彼らは確かに、口付けを交わした。
唇を離し、目を開けた竜は、いつの間にか政が目を開け、こちらを見つめているのに気がついた。
「っ…!」
驚いて身を起こし、何も言わず隣の夜具の中へ潜り込む。高鳴る心臓を手で押さえ、竜は行き場を無くした熱を吐息に変え、吐き出した。
しばらくの後、竜は布団の中からそっと政の様子を窺った。
政はこちらに背を向け、寝入っているようだ。
安堵のため息を漏らし、竜は改めて目を閉じた。
「……!」
気配を感じ、竜がはっと目を覚ました。閉じられた夜具の隙間から、政の手がこちらに伸びてきているのがわかったのだ。
そろそろと近づいてきた政の手は、竜の手を首尾よく見つけ出すと、指を絡め合わせ、強く握った。
「おい、政…。」
竜の呼びかけにも、政は答えない。天井を向き、目は閉じられていた。しかし、意識は完全に竜のほうへ向いている。
心地よい温もりに、いつしか竜も目を閉じていた。
夜具の隙間で固く繋がれた二人の手は、朝になるまで解かれる事はなかった。
互いに素直になれずにいるが、この二人は心の深いところで繋がっている。
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