この声が届きますように
昼、まだ陽も高い中、あいつが通りの真ん中に姿を現した。
紫色の布で顔をすっぽり包み、背中に盗んだ荷物を背負っている。
ここ数日、この辺りに出没している泥棒だ。やっと見つけた…。
民家の陰に潜み、奴の様子を伺う。油断しているようだ。
思い切って飛び掛る。しかし、奴はすぐさま私に気づき、前方へと跳んだ。
避けられた私は、勢い余って地面に倒れこむ。悔しい…!
しかし、まだ終わったわけではない。十手を握り締め、私は彼の名を叫んだ。
「中村さんっ!」
この声が届けば、彼は絶対に来てくれる。絶対に…。
「!!」
泥棒が驚く。横手から飛び出してきた中村さんが、勢いそのままに奴に襲い掛かる。数秒の後、
「よし、召し取ったぞ!」
その声と共に、中村さんが泥棒を地面に押さえつけているのが目に入った。
(良かった…。)
内心の安堵を押し殺し、私はわざと不機嫌な顔を作って立ち上がる。
中村さんは懐から縄を取り出し、捕らえた泥棒を後ろ手に縛り上げていた。
「田中様、捕らえましたよ。」
にこにこ笑顔で言う彼に、私はあえて顔を背け、
「…ふん。いつもこのくらい仕事してくれれば良いんですけどね。」
「ははは、手厳しいですな。」
よいしょっ、っと小さく声に出し、中村さんが立ち上がる。
泥棒を縛った縄を両手に持ち、唐突に彼が私に笑顔を向けた。
「では、参りましょうか。」
「……っ!」
その笑顔を直視してしまい、不覚にも顔が赤らむ。
真っ赤になった顔を見られたくなくて、私は中村さんより先に歩き出した。
「…あれ?」
「何ボサっとしているんですか!? 置いていきますよ!」
「はいはい。」
大股で歩く私の後から、中村さんが泥棒を引っ立てていく。
きっと苦笑を浮かべているに違いない…。
…全く、困ったお人だ本当に!
それから私の心臓! そろそろ普通に戻ってください!
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